般若心経は夕暮れに…

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「ガンジザイボーサツ… ハッ!何やってんだ俺は!!」 慌ててノートと鉛筆を払いのけ布団をバッサァと投げると部屋を飛び出し、奥にある爺さんの部屋へ駆け込んだ。 「じいちゃん!」 「ギャーテギャーテハラギャーテ… ん?修どおした! 今般若心経の音読中じゃ!」 「ギャァー!!」 般若心経と聞いたとたん真っ白になり悲鳴をあげる修… それを聞いた爺さんは何を勘違いしたのか般若心経を一緒に唱えたいと思ったらしく、目を輝かせて修の手を両手で掴みながら言った。 「おぉ!?修も般若心経に目覚めたか!!よし!最初からいくぞい! ガンジザイボーサツ…」 「まって!おじいちゃん!違うんだ!」 「……。では何じゃ!」 よほど孫と般若心経を唱えたかったのだろうか……。 爺さんは寂しそうな表情を浮かべ、修の話に耳を傾けた。 「……というわけなんだよ……。」 「ふむ……。なんと!? ふぉーっ!これは生きているうちにひ孫の顔も見れるかもしれんぞい! 修や!協力する! 毎日写経するのじゃ!」 この老人の体にこれほどの刺激は大丈夫なのであろうか……。 爺さんは突然曲がった腰をピーンと伸ばし、先ほどよりも嬉しそうな表情を浮かべると自分の持つ般若心経の本を押し入れから取り出し修に手渡した。
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