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ケンちゃんから電話が掛かってきたのは二日後だった。
「…もしもし?」
「…葬式、来れるか?」
「…ヤダ」
「歩ー…」
ケンちゃんの困った顔が受話器越しに浮かぶ。
「…行けないよ」
笑ってしまう。マコトが死んだこと…認めたくないのに。
きっとどこかにいるのよ?
それで、いつかまたひょっこり帰ってくるのよ。
『ちょっと出掛けてきた』なんて言ったりしてー…。
「歩が来てくれたら、マコトも喜ぶと思うんだけど…な?」
「…ヤダ」
あたしはまた生きたマコトに会えるって信じてるのに…。
「歩、いい加減にしろよ」
ケンちゃんの低い声がした。
「マコトがいなくなったこと、認めろよ?
好きだったなら尚更な」
「…ごめんね、ケンちゃん。まだ…できないの」
そう言って電話を切った。マコトを好きなことを過去形にしないで?
帰ってくるんだから…。
会えるんだから…。
そう繰り返しながらピンク色の林檎柄のアルバムを開く。
全部二人で撮り合った写真だ。あたしの隣で、マコトはちゃんと笑っている。
…思い出の中でしか、会えないの?
急に切なくなって、アルバムをパタリと閉じた。
生身のマコトに会いたい。落ち着いた声で名前を呼んで、優しく髪を撫でてくれる、マコトに…。本当に会えないのかな…思い出の中でしか。記憶の中でしか。
あたしは再び瞼を閉じた。
マコトが事故に遭ってから三日が経つ。
あたしは大学の講義を休み、食事も喉を通らない状態になった。夜も上手く眠れないせいで、これが現実なのか夢なのか余計わからなくなる。私は今悪い夢を見ているのだ。むしろそうであってほしい。
マコトの葬儀が終わった後、そんなあたしを心配したのか、親友の真由が家に尋ねてきた。
「あゆ、いるんでしょう?」
真由はあたしのことをあゆ、と呼ぶ。
ドア越しに真由の声が聞こえる。ドンドンとドアを叩く音も…。
あたしは真由のアドレスに『駅前のドトールに行ってて』とメールすると、急いで支度をして出掛けた。
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