恋人の死

4/6
前へ
/8ページ
次へ
ケンちゃんから電話が掛かってきたのは二日後だった。 「…もしもし?」 「…葬式、来れるか?」 「…ヤダ」 「歩ー…」 ケンちゃんの困った顔が受話器越しに浮かぶ。 「…行けないよ」 笑ってしまう。マコトが死んだこと…認めたくないのに。 きっとどこかにいるのよ? それで、いつかまたひょっこり帰ってくるのよ。 『ちょっと出掛けてきた』なんて言ったりしてー…。 「歩が来てくれたら、マコトも喜ぶと思うんだけど…な?」 「…ヤダ」 あたしはまた生きたマコトに会えるって信じてるのに…。 「歩、いい加減にしろよ」 ケンちゃんの低い声がした。 「マコトがいなくなったこと、認めろよ? 好きだったなら尚更な」 「…ごめんね、ケンちゃん。まだ…できないの」 そう言って電話を切った。マコトを好きなことを過去形にしないで? 帰ってくるんだから…。 会えるんだから…。 そう繰り返しながらピンク色の林檎柄のアルバムを開く。 全部二人で撮り合った写真だ。あたしの隣で、マコトはちゃんと笑っている。 …思い出の中でしか、会えないの? 急に切なくなって、アルバムをパタリと閉じた。 生身のマコトに会いたい。落ち着いた声で名前を呼んで、優しく髪を撫でてくれる、マコトに…。本当に会えないのかな…思い出の中でしか。記憶の中でしか。 あたしは再び瞼を閉じた。 マコトが事故に遭ってから三日が経つ。 あたしは大学の講義を休み、食事も喉を通らない状態になった。夜も上手く眠れないせいで、これが現実なのか夢なのか余計わからなくなる。私は今悪い夢を見ているのだ。むしろそうであってほしい。 マコトの葬儀が終わった後、そんなあたしを心配したのか、親友の真由が家に尋ねてきた。 「あゆ、いるんでしょう?」 真由はあたしのことをあゆ、と呼ぶ。 ドア越しに真由の声が聞こえる。ドンドンとドアを叩く音も…。 あたしは真由のアドレスに『駅前のドトールに行ってて』とメールすると、急いで支度をして出掛けた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加