第一層 クラウド・ビギニング

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「なによ! いったいどうしたってのよ!」  そいつがいると聞いたのは、小さい武器防具屋での出来事だ。ここではなんでも全てコンピューターで管理されているためか、もちろん店員もコンピューターのAIらしい。いま、その人間はAI相手に喧嘩していた。持っている革靴からして、値段について争っているのだろうか? 「おいおい、一体どうしたってんだ?」  まずは店員に話してみる。なんというか、そこに映っているのは普通に可愛らしい女性なのだが、ホログラムだと聞くとなるほど、違和感を感じてしまうのはやはり人間の脳が不完全なのだろう。まあ、そんなことはさておき、一体なにがあったんだ。 「この人が革靴50G(ゴールド)はおかしいんじゃないの、と言い出しまして……」  ははあ、50ゴールドか。うむ、高すぎるようにも思えて、安すぎるようにも見える。  なぜ彼女がこれで争っているのか、わかる気がする。なぜなら、はじめにここから脱出するために集められた人間は、あの白い部屋で幾らかの装備(といっても檜の棒きれと、ちょっとしたスカーフくらいだ)とお金(ここ独自のものらしく、100Gが存在していた)を手に入れて、以後それを用いる。迷宮の各層にもお金や装備は落ちている――と、親切にも白い部屋にあった同人誌ばりのうすさの本に書かれてあった。  50Gとは最初に支給された100Gの半分を意味している。つまりは、革靴のみで死線までの距離を半分まで縮めたに近い。この迷宮は“モンスターこそ出ない”とは書かれてあった。それはつまり、唯一であり最大の敵、空腹のみと純粋に戦えということを意味していた。
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