1 提灯に釣鐘

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「何不貞腐れてるんですか? 君も行くんですよ」 「え? いや、どうして?」 「どうして? 君は俺の彼女ですよね?」 「一応」 「一応ですか。 ま、気に入らない返事ですが今はそれでいいでしょう。 とりあえず、行きますよ。 お腹もすきましたし」 「理由が全く分からないんですけど」 「別に実家でご飯を食べるから一緒にどうぞと言ってるだけです」 「むむむむむむ」 「む?」 「無理です! 部長の御家族とお食事だなんて! 私、今日、こんな格好ですし、ここ心の準備が」 「そんなもの必要ないでしょ。 ただご飯を食べるだけですし、格好なんて別にいつもも余所行きも君はそんな変わらないですから」 そりゃ、そうだけど、そんなハッキリ言わなくても。 それにこんな格好で家族と初対面とかやっぱり嫌だ。 「部長、やっぱり私」 「却下です」 そう言うと、タクシーを止めて私の手を握りしめたまま乗り込んだ。
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