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(…え? なんで、そんな顔…?)
予想外の反応だった。
男の表情は、今までリゼが見てきたものとはどこか違っていた。
それは哀れむようにも、受け入れているようにも見える。
全く意味が解らなかった。
リゼは真意を探る様にじっと男を見つめた。
男は、しかしはぐらかす様に微笑して、
「この地図、大事なものだったのかい?」
いつの間に手にしたのか、男はリゼの眼前で羊皮紙の地図をひらひらと煽って見せた。
数秒の後、反射的に手を伸ばす。
しかし掴む前に上に上げられ、リゼの手は空を切った。
「でもね、いくら大事でも周りは見るべきだ。それに道路に棒立ちなんて自殺行為だ。次からはダメだよ。いいね?」
子供をあやすように言い聞かせ、男はリゼの腰に回していた腕を解いた。
解放され、リゼはゆっくりと向き直る。
正面で対峙すると、男は柔和な笑みを浮かべた。
「私の言葉、わかるかい?」
ゆっくりと、あやすように男は問うた。
リゼは無言で、けれどもきちんと頷いた。
「うん、いい子だ」
柔らかく口端を上げ、男はリゼの頭を撫でる。
拒む理由もなかったリゼは静かにそれを受け入れた。
完全に子ども扱いだと、彼女は理解していた。
けれど、誰かに頭を撫でられたのは、こうして接するのは初めてで。
何だか、ひどく心地よかった。
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