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厄介払いなのだと気づいていた。
十六年間、孤児院で育てられたアイリーゼは自分の立ち位置をよく理解していた。
白く細い手足に灰色の長いくせ毛。
大きな、闇にすら同化しそうな漆黒の瞳。
──他と相容れない、異質な存在。
それこそがリゼの立ち位置であり、不吉な容姿だった。
普通、エトワール王国に生まれる子供は赤や青、金や琥珀などの美しい色を持って生まれてくる。
そこに黒はない。
しかし、リゼは黒を持ち、異質な容姿で生まれ落ちた。
──悪魔堕ち。
暗い色素のリゼの容姿はそう呼ばれた。
悪魔の成り損ないなのだ、と。
だから、なのだろうか。
リゼは生まれて間もない頃に孤児院の前に捨てられた。
親にすら見放されたリゼは孤児院でも一人だった。
誰もリゼに近づこうとはしなかった。
そしていつしか。
リゼ自身も自ら一人を好み、静かな、人のいない場所を好むようになった。
けれど、決して悲観している訳ではなかった。
ただ、自分は人とは違うから仕方がない。
そう受け入れていた。
だから今朝、見送る者が誰一人としていなくてもリゼは平気だった。
『そういうものなんだ』と、受け入れる事を覚えていたから。
「……いってきます」
出発前、何となく言ってみた。返事はなかった。
それでも、彼女は決して孤児院が嫌いではなかった。
嫌いには……なれなかった。
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