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時は戻り、午前九時。
ラスティーユ。
船を降りたリゼは、未だ覚束ない足取りでシルフォード侯爵家に向かっていた。
渡された地図ではラスティーユの東、貴族街に位置している。
右も左もわからない土地で方向を確かめながらリゼは歩みを進めた。
歩きながら、リゼは初めての街を無表情ながら興味深く観察していた。
これといって統一された所のない、まさに個性の塊のような街。
デザイン、色、大きさに至るまで、異なる建物がいくつも建ち並び、けれどもそれらは同じ一つの連合に所属していた。
それがこの街の特徴、ギルド連合だ。
ギルド連合とは文字通りギルドの組合であり、ラスティーユにはギルドがいくつも存在していた。
そのためラスティーユは別名『ギルド連合都市』と呼ばれている。
それはエトワール王国でも絶大な知名度を誇っていた。
勿論孤児のリゼでも知っている。
もともと本が好きで博学な彼女だが、それを差し引いても知名度はかなりのものだった。
海沿いの市場を歩くリゼの目にもいくつものギルドが確認できる。
大きさこそ異なるがそれぞれのギルドが建物にでかでかと紋章を掲げていた。
恐らく、その存在を誇示しているのだろう。
リゼは、けれど何の感慨も持たずに無表情でそれらを眺めた。
冷めているのではなく単に興味がなかったのだ。
結局、すぐに意識は削がれリゼは先を急いだ。
昨夜の雨でできた水溜りも、気にせず踏み込み市場を抜けた。と
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