第一章 罠にかかった悪魔堕ち

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「あ…………」 滅多に変わらないリゼの表情が少しだけ崩れた。 突風が焦げ茶のローブを振らし、同時にリゼの地図を奪っていったのだ。 あれがなくては奉公先に行けない。 リゼは人混みに割り込み、無我夢中で地図を追った。 幸いにも、地図は数メートル先の水溜りに落ちそこから動かない。 追いついたリゼは安堵しながら、地図を拾おうと腰をかがめた。 それは、道路の真ん中だった。 リゼは気づかず地図を手に取る。 多少濡れてしまったが見る分には問題ない。 それが分かると再び安堵した。 その時。 「嬢ちゃん、危ないぞ!」 道路の脇から老人に声をかけられた。 そこでようやく、リゼは自分の状況に気が付く。 早く退いた方が良さそうだ。 そう思い踵を返そうとした──瞬間。 『 ダ メ だ よ 』 雑音にも似たノイズが、リゼの鼓膜を揺らした。 足元の水溜りが小さく跳ねる。 (え?) ……なに? そう思考する前に事は起こった。 「危ない!?」 悲痛な声が辺りに響く。 と同時に、タイヤが地面を擦る音が空気を裂いて。 リゼの眼前には一台の車が迫っていた。 彼女の足は止まっていたのだ。 誰もが助からないと思った。 勿論、彼女自身も。終わったと思った───が。 衝突の瞬間、リゼの眼下で何かが光を放った。 淡く、優しいその光に誘われるようにリゼは目を見開く。 それは一瞬だった。
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