第一話

6/13
前へ
/21ページ
次へ
「すまないが、警戒を強めてくれるか?」 「は……?」  護衛はそれだけでは意味が分からなかったのか、何故そんな事を? と首を傾げる。そんな護衛を、男は手で押し退けると、雨に濡れる事も構わずに馬車から降りた。豪雨で視界が悪い中、目を凝らして何かを探すように辺りを見回す。しかし、とりあえずは、目当ての物は見えなかったのか、少しだけ安堵したように護衛に向き直る。 「橋は、落とされたのかも知れん」 「な、つ、つまり……この馬車隊が狙われていると?」  護衛は、ようやく理解したのか、焦りを見せた。男がしたように、自分でも辺りを見回す。 「可能性の話だ。普通なら落ちないであろう橋が落ちたのなら、誰かが落としたのかも知れないっていうな。まだ、襲われていないのなら、違うかも知れないが。一応、警戒を強めてくれ。馬車隊が全滅したらお前達も只じゃ済まないだろ?」 「分かりました。伝えます。あの……、万が一の場合は」  護衛は、男の持つ長剣に目をやり、申し訳なさそうに問う。 「すまないが、俺は既に第一線を退いた老傭兵だ。しかも実質、流れ身のな。戦力としてはあまり期待しない方がいい。この長剣も、半分は見せ掛けの為に持っているような物だ」  長剣をぽんっ、と叩き、男は苦笑する。 「そうですか……では、なるだけ、御迷惑をお掛けしないよう善処します」 「そうしてくれ。で、町への回り道はどうするつもりだ?」 「あ、はい。上流の方に、木製ではありますが橋が掛かってますので、今そちらの方へ物見を送っています。しかし、何分この雨ですので」 「まぁ、落ちているだろうな」 「はい……」  困った、というように護衛はため息をつく。 「他に、道は無いのか?」 「一応、ここから下流に、船で2日近く下った所に、石橋が掛けられてはいますが、そこに向かうには、グラハウまで戻る必要があるんですよ」  男はそれは駄目だと言うように、首を横に振った。グラハウとは、この馬車隊が発った町の名であり、途中乗車である男達が発った町より、更に前の町の事であったからだ。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加