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「すまないが、警戒を強めてくれるか?」
「は……?」
護衛はそれだけでは意味が分からなかったのか、何故そんな事を? と首を傾げる。そんな護衛を、男は手で押し退けると、雨に濡れる事も構わずに馬車から降りた。豪雨で視界が悪い中、目を凝らして何かを探すように辺りを見回す。しかし、とりあえずは、目当ての物は見えなかったのか、少しだけ安堵したように護衛に向き直る。
「橋は、落とされたのかも知れん」
「な、つ、つまり……この馬車隊が狙われていると?」
護衛は、ようやく理解したのか、焦りを見せた。男がしたように、自分でも辺りを見回す。
「可能性の話だ。普通なら落ちないであろう橋が落ちたのなら、誰かが落としたのかも知れないっていうな。まだ、襲われていないのなら、違うかも知れないが。一応、警戒を強めてくれ。馬車隊が全滅したらお前達も只じゃ済まないだろ?」
「分かりました。伝えます。あの……、万が一の場合は」
護衛は、男の持つ長剣に目をやり、申し訳なさそうに問う。
「すまないが、俺は既に第一線を退いた老傭兵だ。しかも実質、流れ身のな。戦力としてはあまり期待しない方がいい。この長剣も、半分は見せ掛けの為に持っているような物だ」
長剣をぽんっ、と叩き、男は苦笑する。
「そうですか……では、なるだけ、御迷惑をお掛けしないよう善処します」
「そうしてくれ。で、町への回り道はどうするつもりだ?」
「あ、はい。上流の方に、木製ではありますが橋が掛かってますので、今そちらの方へ物見を送っています。しかし、何分この雨ですので」
「まぁ、落ちているだろうな」
「はい……」
困った、というように護衛はため息をつく。
「他に、道は無いのか?」
「一応、ここから下流に、船で2日近く下った所に、石橋が掛けられてはいますが、そこに向かうには、グラハウまで戻る必要があるんですよ」
男はそれは駄目だと言うように、首を横に振った。グラハウとは、この馬車隊が発った町の名であり、途中乗車である男達が発った町より、更に前の町の事であったからだ。
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