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「それじゃあ一週間は余計に掛かる。そんな事をしている時間は無いんだろう? この馬車隊には。俺達も、そんなに暇ではないしな」
男は言いながら、考え込む。
「あ、あの。とりあえず、私は警戒にあたるよう、伝えて参ります」
「……ん、そうだな。頼む」
護衛が伝令に走るのを見送り、男はもう一度周囲を見回すと馬車の幌を開け、少女を呼んだ。
「ルーミィ。準備しろ。出るぞ」
「えー、さっきまで濡れるから駄目だとか言ってたのに?」
ごそごそと荷物の間から顔を出し、少女は若干不満そうに答えた。しかし、外に出れる事が嬉しいのかすぐさま外套を羽織ると、自分の荷物をからう。そして、男の荷物を手に取り、男に渡した。
「はい、ライズ。あれ、そういえば外套は着ないの?」
「ん、すまない。そうだな、もう濡れているが……着とくか」
荷物から外套を取りだし羽織ると、男は少女の頭に外套のフードを被せ、自分のフードも被った。
「よし、それじゃ行くぞ」
「あ、馬車はどうするの?」
少女は馬車を降りると、少し名残惜しそうに馬車を見た。男は少女の頭をぽんっと叩き、答える。
「お代は勿体無いが、仕方ない。状況が変わったからな。竜神橋が落とされたのか、それとも落ちたのかは分からないが、早く行かないとまずそうだ。奴等に追い付かれる前にな」
ピクッ、と少女が反応し、不安そうに男を見上げた。
「……他のお客さん達は?」
前方の馬車に乗っているであろう客の身を案じ、少女は呟く。しかし、男は少女に対し、事務的とも思える口調で淡々と告げた。
「お前を守るので精一杯だ。悪いが、囮に使う。護衛も、客もな」
聞いて、少女は悲しそうに下を向く。
「そう……、また、顔も知らない。名前も知らない人達に迷惑かけるんだ。あたし」
男はそれに、無言で答える。
「……分かった。行こう、ライズ」
少女は暗いながらも、今から自分のする事に対して、決意の籠った声で宣言した。
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