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「うぇー。あたし、もう足首まで水に浸かっちゃってるよ。靴の中びっちゃびちゃ。なんかもう、逆に楽しいくらい。ね、ライズ。どうやって次の町に行くの? 竜神橋、落ちてるんだよね?」
護衛にも気付かれぬよう馬車隊から離れ、二人は人の背丈の半分程もある草に身を隠しながら――とはいっても、少女の背丈ではもとより隠れる必要も無かったので、男だけが背を低くしながら進んでいた。というだけの事であるが――川のすぐ近くまで移動する。少女がジャボジャボと足踏みして水の重みを楽しむ中、男は腰を落とした状態で、茂みの中から離れた場所にある竜神橋を望む。
「ふむ……確かに、落ちているな。真ん中がごっそり無くなっている……ん、竜神の紋章が抉られているか。やはり落とされたようだな」
男は左目の片眼鏡に手を伸ばし、レンズに付けられた目盛りを回す。
「……竜神の加護を打ち消す程の力……か。奴等では無いようだが、この相手にも見つかったら厄介だな」
と、少女が男の肩を叩いた。
「あたしにも見せて」
男は一瞬躊躇したが、フードを脱いで片眼鏡を外し、少女に渡す。
「あ、ほんとだ。……雷禍(らいか)かな?」
少女は言い、片眼鏡を覗きながら目盛りを弄る。
「さぁな。炎狸(えんり)かも知れん。……壊すなよ。高いんだから」
「はーい。ね、ライズ。これだいぶ弱くなってない? 全然拡大しないよ?」
少女は片眼鏡を返しつつ、目を擦った。男は片眼鏡を受け取り、装着してフードを被りなおす。
「大丈夫か? 慣れてないんだから、無理矢理拡大したら疲れるに決まっているだろ。そうだな、後でレンズを取り替えておく。……さて、と」
男は立ち上がり、少女に向き直って言った。
「ルーミィ。橋が落ちている以上、この川を渡って町に向かうには、石を使って走るか飛ぶしかないと思うんだが」
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