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「え? また使うの? えーと……、あたし気分悪くなっちゃうから嫌かなー……なんて」
少女が顔を歪め、ちらり、と横目で川幅を確かめた。
「これ……どれくらいあるの?」
二人の目の前に広がる川は、かなり大きい。さらには豪雨で水かさが増し、氾濫もしているのだ。実質的に、安全な距離というのも伸びる事が予想される。
「幅は竜尺(成竜一匹の頭から尻尾までの長さ。一匹で約十メートル程)でだいたい三匹くらいか……。別にいいだろう? お前が走ったり飛んだりする訳じゃないんだ」
男は自分の荷物から皮袋を取りだす。
「うー、使うのはライズでも、あたしは酔っちゃうもん」
「そろそろ慣れたらどうだ? 確かに身体への負担は大きいし、使い過ぎると麻薬みたいな代物だが、実際に使う訳じゃないお前への負担なんて微々たるもんだぞ?」
言いながら皮袋から小さく光輝く石を取り出す男に、少女は不満そうに押し黙った。
「むぅ……そうなんだけどさ……」
「仕方ないだろう? 文句があるなら、橋を落とした奴等に言ってくれ。……まぁ、大丈夫だろ。竜尺三匹程度の距離なら、あっという間だ」
男は、大丈夫だから、と笑いかける。そして荷物を後ろではなく前にからうと、少女に背を向けてしゃがみ、手招きした。
「ほら、さっさと渡るぞ。早くおぶされ。いつ奴等や橋を落とした連中が来るか分からんのだから」
「うん……」
少女は渋々と頷いた。男の背中に手をかけ、おぶさろうと片足を上げる。
と、その時、馬車隊の方から怒号と悲鳴が、二人の耳に聞こえてきた。
「む……もう来たのか」
男は耳を済ます。護衛の笛の音。馬の嘶き。乗客達の悲鳴に、何者かの笑い声。全てが豪雨によって聞こえづらいとはいえ、確実に、馬車隊が襲われているだろう事を指している。
同時に、遠くからでもそれと分かる、小規模の爆発のような光と音が耳を打つ。
「この音と光は……炎狸か。あの護衛達では……無理だな」
「ねぇ……ライズ」
「駄目だ。お前の安全が最優先だ」
首を横に振り、ほら早く、と男は促す。
「でも……」
「でもじゃない。万が一お前に何かあれば困る。それに、お前はもう選択したはずだ」
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