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男は叱責すると、それに、と付け加えた。
「さらに奴等まで来たら、俺にお前を守りきる自信は無い。ルーミィ、そうしたら、お前は志半ばで夢が潰える事になる。それでいいのか?」
「よく……ない」
少女は唇を噛み締める。自分達が戻れば、護衛と共に男が馬車隊を救えるかも知れない。しかし、自分の成すべき事と、自分が決めるべき事。万が一の事態が起こった場合、どうなるか。少女は思考の狭間で揺れる。
「だったら、早くおぶされ。情を捨てろ」
知ってか知らずか。男は無情にも困っている人々は無視しろと、厳しい表情で告げた。
「っ……」
びくっ、と震えた少女は固い表情のまま、ようやく無言で男に身体を預ける。男はほっとしたように息をつくと、しっかりと落ちないように少女を抱え立ち上がる。
「それでいい。じゃあ始めるぞ。掴まってろ」
男は手に持つ小石を口に入れ、そして奥歯で噛み締めた。
瞬間。
それまでキラキラと光輝いていただけの小石は、まるで飴を噛み砕いたかのように割れた。かと思うと、どろりとした液体となって口中へと広がった。
「……」
男は目を瞑ってそれを咀嚼する。味の無いそれは、だんだんと熱を持ち、ただのどろりとした状態から、粘性が高い水飴のような物へとなっていく。
「ん……」
そして、男はそれを飲み込んだ。水飴状の熱を持った物質が、喉を通り、胃へと落ち、じわり、と、身体中へ熱が伝わる。
「ぐっ……!」
次に男を襲ったのは、胸焼けと身体中の筋肉や骨が軋みを上げるような、痛みだった。
「……慣れているとはいえ、年々辛くなってくるな、これは……」
ぼそり、と男は呟く。
「ライズ……大丈夫?」
少女が背中から心配そうに声を掛けるが男は答えず、額に脂汗をかきながらも痛みに耐える。
「…………よし、行くか」
少しして痛みが消えると、男はすっきりしたように気合いを入れた。脂汗も引き、むしろ先程までよりも生き生きとした表情になる。さらには、身体全体からフードや外套ごしからでも分かるほど、湯気のような物が立ち上っていた。
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