第一話

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 男は叱責すると、それに、と付け加えた。 「さらに奴等まで来たら、俺にお前を守りきる自信は無い。ルーミィ、そうしたら、お前は志半ばで夢が潰える事になる。それでいいのか?」 「よく……ない」  少女は唇を噛み締める。自分達が戻れば、護衛と共に男が馬車隊を救えるかも知れない。しかし、自分の成すべき事と、自分が決めるべき事。万が一の事態が起こった場合、どうなるか。少女は思考の狭間で揺れる。 「だったら、早くおぶされ。情を捨てろ」  知ってか知らずか。男は無情にも困っている人々は無視しろと、厳しい表情で告げた。 「っ……」  びくっ、と震えた少女は固い表情のまま、ようやく無言で男に身体を預ける。男はほっとしたように息をつくと、しっかりと落ちないように少女を抱え立ち上がる。 「それでいい。じゃあ始めるぞ。掴まってろ」  男は手に持つ小石を口に入れ、そして奥歯で噛み締めた。  瞬間。  それまでキラキラと光輝いていただけの小石は、まるで飴を噛み砕いたかのように割れた。かと思うと、どろりとした液体となって口中へと広がった。 「……」  男は目を瞑ってそれを咀嚼する。味の無いそれは、だんだんと熱を持ち、ただのどろりとした状態から、粘性が高い水飴のような物へとなっていく。 「ん……」  そして、男はそれを飲み込んだ。水飴状の熱を持った物質が、喉を通り、胃へと落ち、じわり、と、身体中へ熱が伝わる。 「ぐっ……!」  次に男を襲ったのは、胸焼けと身体中の筋肉や骨が軋みを上げるような、痛みだった。 「……慣れているとはいえ、年々辛くなってくるな、これは……」  ぼそり、と男は呟く。 「ライズ……大丈夫?」  少女が背中から心配そうに声を掛けるが男は答えず、額に脂汗をかきながらも痛みに耐える。 「…………よし、行くか」  少しして痛みが消えると、男はすっきりしたように気合いを入れた。脂汗も引き、むしろ先程までよりも生き生きとした表情になる。さらには、身体全体からフードや外套ごしからでも分かるほど、湯気のような物が立ち上っていた。
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