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「さて、エミリー、と言ったか?」
男は女の子の肩に手を置くと、優しく語りかけた。
「先生を離して!」
女の子は肩に置かれた手を振りほどこうとしながら、男を睨む。
「おやおや、これは嫌われたもんだ。俺は良い人だってのに。なぁ、シスターレイア?」
肩をすくめ、シスターに笑いかける男。しかし、その目は笑ってはいない。
「お願い、その娘を……子供達を離して……」
シスターは懇願する。その目には涙も浮かんでいた。
「もう一度聞こう。エミリー、と言ったか?」
「それが何よ! 先生を離してよ!」
「君は、レイア先生が好きかい?」
「……ッ! 当たり前でしょ! いいから離して!」
と、男はまた冷徹な笑みをシスターに向けてから、女の子の頭を掴み、シスターから目が離せないように固定する。
「そうか、なら今の内に良く見ておくんだな」
「い、痛い!」
「え、エミリー! お願い、止めて!」
シスターは堪らず声を上げた。男がナイフを取り出す。
「さぁ、シスターレイア」
そして、女の子の首筋にあてがった。切れ味の良いナイフが、触っただけで首から一筋、火事の灯りでもそれと分かる血が流れる。
「うあ……先生」
「え、エミ――」
「石は、何処だ?」
やり取りを遮り、男は命令にも等しい詰問を始める。
「先生、言っちゃダメ。こんな奴の言う事聞いちゃ」
「何処に、ある?」
男は、ナイフを更に首筋に食い込ませた。
「言います、言いますからエミリーを!」
「良いから早く言え。それとも、すぐにこの餓鬼の命が散るのを見たいか?」
「うう……」
「ダメ……先、生」
と、必死に、自分の事ではなく、シスターの安全を訴える女の子に、シスターは涙目で、笑いかけた。
「あなたを死なせる訳にはいかないわよ、エミリー」
「先――!」
「ここから、東に少し行った所の池の畔、一番小さな木の根元に、箱と共に埋めてあるわ」
シスターは男の底冷えするような目から視線を逸らさず、言い切った。嘘は言っていない、だから女の子を離して、と。
「…………」
男はたっぷりと数十秒、シスターの言葉と表情に嘘がないかと探る。
「……本当のようだな」
「本当です。さぁ、約束通り、エミリーと子供達を離して」
シスターは憔悴しきったように弱々しく言った。
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