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「約束? シスターレイア。いつ、俺が、貴様が本当の事を言ったからと言って、餓鬼共を離してやると言った?」
「そん、な――」
シスターの顔が絶望へと変わる。
「さぁ、エミリー、シスターレイアの顔は存分に見たかな? そろそろ、さよならの時間だ」
「い、いや、離し……先――か、ふっ……」
「エミリー!?」
シスターの絶叫が響き渡った。同時、女の子の身体が一瞬強張った後、糸が切れたように崩折れる。
「うぁ……あぁ……」
血溜まりが広がる中、痙攣し、動かなくなって行く女の子に走り寄ろうにも、シスターは身体を動かす事も出来ない。
「ククククク。いい表情(かお)だな、シスターレイア? 餓鬼共が大事ならば約束を守れば良かったのさ」
ナイフに付いた血をぬぐい去り、男は冷笑を浴びせる。
「もう言葉も出ないか? ……まぁいい。これで懲りたら、今度からはちゃんと、同じだけ払うんだな。でなければ、また可愛い餓鬼共が一人死ぬ事になるぜ?」
シスターの前で倒れたままの子供を見やり、男は告げる。
「あぁ、それと、この死ななくてすんだ幸運な餓鬼共は、俺が貰っていく。今回の迷惑料だ。餓鬼共は、高く売れるんでな」
「え……あ……」
「……ふん、また1ヶ月精々頑張んな。そうすりゃ、これ以上尊い犠牲って奴は無くなるんだ。ククククク」
男は、もう動かなくなった女の子を、放心状態で見詰めるシスターに一方的に言うと、踵を返した。
「行くぞお前等。撤収だ」
――これが、全ての始まり。孤児院で起こった悪夢の、一部分である。
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