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とある国の国境付近、豪雨とも言うべき悪天候の中、それぞれ四頭の馬に牽かれた乗り合い馬車五台は、二頭ずつ馬に乗った護衛に囲まれ、足早に草原の道を駆けていた。
ここ最近降り続いている雨のせいで、道の状態は非常に悪く、古くなった馬車達の車輪が、車体が揺れる度悲鳴を上げる。しかし、馬車達は己の進む道の先すらろくに見えぬ中を、速度を緩めぬまま走り続けていた。
「だから、あたしは外に出たいの! 少しくらい良いじゃない、ライズのバカ!」
「お前な、何度も言うけど、今外出たら濡れて風邪引くぞ? 雨も降り続いてるし、そもそも危ないから駄目だって」
そんな、何かから逃げているかの様にすら見える馬車達の最後尾、一番古く揺れも大きい、今にも壊れそうな馬車に乗った二人の人間が、何事か言い争っている。
「あたしは風邪なんて引かないから大丈夫だもん!」
一人は年端も行かぬ少女で、腰まで届くかという長さの金髪に、幼い割に人形のように整った、綺麗な顔つきに澄んだ青い瞳をしている。透き通るような陶器のように白い肌。一見して貴族のそれと分かる、高価そうな絹で出来た、白を基調とした衣服を着ている。
「つい二日前まで腹痛で寝込んでたガキが言う事じゃないな」
「うるさい! バカライズ!」
「……良いから座ってろ。あと一時間もしたら次の町に着くんだから」
もう一人は、少女とは不釣り合いな程がたいの良い、初老の男性だ。白髪の混じった、ぼさぼさに立てられた黒の短髪に、長い年月を太陽の元で戦いに興じていたのであろう、日焼けと古傷だらけの、彼の年齢にしてみたら深い皺が刻まれた顔。銀色の瞳に、左目にはゴツい片眼鏡(モノクル)のような物を着けている。
服装は単純な麻布の服に、簡易で装飾も少ない皮製の胸当てや肩当て、足を守るガード等、動き易さに重点を置いた、しかし防御にも定評のある、腰に帯剣もできるように作られた武具を着込んでいる。少女が雇った傭兵である事を示す白い帯を、太い右腕に巻き付けていた。
唯一の武器であろう、古いが手入れの行き届いている事が分かる長剣が、鞘に入れられ、胡座をかいて座る彼の横に無造作に置かれている。揺れる馬車に合わせ、時折跳ねて音を出すが、男は気にもしていないようだ。
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