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「俺が、どれだけ食後のデザートを大切にしているか、分かってるだろ?」
男は、じっと少女を見詰めた。端から見ればまるで、いい歳をした大の男が、年端も行かぬ少女に、求婚をしているかのように真剣そのもの、といった表情で。
「……はぁ」
思わずため息をつき、少女は肩を竦めた。仕様が無いな、と首を小さく左右に振り、呆れと諦めが入り交じった言葉を発する。
「分かった。デザート抜きはやめといてあげる。……助けてくれてありがと」
その言葉を聞き、男は初老とは思えないほど純粋な――小さな子供が大好きな玩具を手にした時のような――笑みを浮かべ、小さくガッツポーズを取った。そして、すぐに初老の男らしい真顔に戻った後、咳払いをし少女に背を向ける。
「お前が死んだら俺の報酬は無くなるからな。助けるのは当たり前だ。危険なのは分かっただろ。座っとけ」
そう、何事も無かったかの様に告げ、男は元の場所に戻り、また胡座をかいて座り込んだ。しかし、些か、先ほどまでより全体の雰囲気がそわそわしているように見えるのは、気のせいであろうか。
少女はそんな男に、小さく、くすりと笑った後、ふと思い付いたのだろう。男の元に駆け寄り、顔を覗き込んだ。
「……なんだ」
男は、目の前に立つ、胡座をかいて丁度、背の高さが合う少女に問い掛ける。が、満面の笑みで見詰める少女は答えず、じっと見つめ続けた。
「…………」
そうして、数十秒経ち、さすがに男が痺れを切らしたのだろう、視線を外した。その瞬間だった。
「……おい」
気付くと、胡座をかいて座る自分の上に、背を向けて座っていた少女に、男は思わず抗議の声を上げる。しかし、少女は鼻歌を歌い、男の言葉を無視したまま、男に身体を預けた。一層、少女の重み――と、言っても凄く軽いのだが――を感じ、男は顔をしかめる。
「座るなら、ちゃんと床に座れ」
何故わざわざ俺の上に座る。と、背を向けて自分の膝に座っているせいで、さらさらとした金色に光を反射する、綺麗なうなじしか見えない少女に男は訴えかけた。
「いいじゃない別に。こっちの方が安全でしょ。それとも、あたしが落ちて怪我しても良いって言うなら、離れるけど」
ふふん、と得意そうに少女言う。そのまま離れそうにない少女に、男はため息をついた。
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