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「明日会社に行けば、明日学校に行けさえすれば」そんな声が聞こえてきそうな木曜の夜。疲れきって萎れたようなサラリーマンから、夜はこれからと息を荒くする若者、これと言った目的も無さそうに彷徨う浮浪者らしき老人。見上げれば街は巨大なビルのせいで箱庭の中にいるような感覚。
「我々は神の箱庭の住人に過ぎない」。いつもどこかで読んだ本の一節が頭をよぎる。私たちは、皆それぞれが、自らの意思に従って生きているように見えるが、それすらも神の意志に操られていると言うことらしい。即ち、箱庭の住人は操り人形と言うわけだ。では、あの本の作者に壮大なネタばれをさせた神の真意は一体何なのだろうか。
昼間はこの新宿の一角にあるまずまず名の知れた商社に勤めている。つまりは、しがないオフィスレディーということになる。大学を現役で卒業すると同時に就職。今年で社会人3年生。人間関係も良好で、上司からの受けもよい。とはいえども、まだまだ新人扱いを受ける。
「片桐くん」と呼ばれればすぐに飛んでいく。日々、上司の資料のコピーにひた走り、来客時のお茶出しも私の仕事。いつも面倒な仕事は私の所に集まってくる。ペーペーの新人よりは、少し仕事ができるやつに雑用を任せた方が早い事を皆が知っているのだ。
ただ、私はそんなことをいちいち口に出したり、表情やしぐさで示したりする事はしない。これが、人間関係を穏便に、そして良好に保つための最善策である事は誰だって分かるはずだ。しかし、それができるかどうかは、別の話。
大学では心理学を専攻していた。はじめは、「心理テストが好きだから」、そのくらいの気持ちで選んだ道だった。それに高校を卒業してそのまま働くというのもなんだか気が進まなかった。
そして、結果田的にのめり込んだ。心の世界の奥深さ、未知の部分の多さ、そして常に表れる「例外」の存在。そのどれもが私を心理学という世界に引きずり込むには十分過ぎた。
教授達からは、わざわざ一般企業に就職しなくても。と散々大学院への進学を勧められた。学費も持つとまで言われたが断って今の会社に就職した。私は、どうしても現場でヒトの心に触れたかった。確かに、院に進めば研究を深くする事は出来る。でも研究室で、常に動き、変わる心の事を考えると言うことは私の性には合わなかった。だから、今の環境に満足している。
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