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それは唐突に――衝動的に訪れた。
家を出て暗闇を一歩踏み締めた瞬間、わかったことがある。
犯罪者が最も好む死の高揚が、辺り一面に濁流となって流れ込んでいた。
こういう日は変態が多い。
己の欲望を傍若無人に振り翳し、他人の苦しみや悲鳴を肥やしとする、腐敗したはぐれ者達だ。
夜の雨でなにを思い浮かべるだろう。
私なら、白い街灯を見上げた時に、自分が魚の群れの中にいるような錯覚を覚える。
私なら、銀色の光沢に目を落とした時に、アスファルトの神秘さを見透かした気分になる。
私なら、水溜まりを覗いた時に、その奥には逆さに張り付いた、別の世界が存在しているように映る。
陰と陽。対極に創造された世界の覚醒と昏睡。
明から暗に変わりゆく過程は、廃れゆく世界そのものであり、パンドラの箱に閉じ込められた気分になる。
しかし、こんな場所でも視点一つで幽玄さを垣間見るのだと、私は自嘲めいた笑いを漏らした。
前を歩いている男がそれに気付いて一瞬振り返るが、私はなんでもないわ、と首を振る。
男は特に気にした様子もなく、狡猾な笑みを浮かべ、再び歩き始めた。
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