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きっと男の中では、この後の段取りしか頭にないのだろう。
頭の悪い人間の妄想は読みやすくて助かる。
言葉や表情からでなくても、背中や仕草、歩き方でも安易に伝わってしまう。
この男はまだ知らないのだ。
自分の間違いも。自分の結果も。
私にはその姿が滑稽に見えて仕方がなかった。
人気もなく、喧騒から離れた夜の路地裏。
じめっとした湿気が身体にまとわりつき、黴臭い。
ひび割れた建物から垂れる剥き出しの電線。簡易食の山や空き瓶。どこか饐えた臭いも漂ってくる路地裏は、雨のお陰でより暗闇に深さを増していた。
こうした今時の若者には似つかわしい場所だった。
お互い傘も差さず、ぴちゃぴちゃと歩いてきて、閑散とした十メートル四方の狭い空き地に出た。
ジ……ジジ、ジ……
街灯は相変わらず頼りなく、白黒点滅を繰り返していた。
霧状の雨に紛れて小さな虫が、メビウスリングを描き、僅かな光に群がっている。
男はようやく立ち止まると、身体ごとこちらへ振り返った。
私は男よりも既に段取りを決めていたので、いとも簡単に不意をついた。
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