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車の硝子を振り払い、 血だらけの足を引きずり、詩音に支えられながら、柏木は歩く。 詩音は頭から血を流し、息をはあはあさせながら柏木に言う。 「絶対倒れないでね。 貴方が倒れたら、私は頭を更に怪我することになるから」 柏木は力なく笑う。 「こんな時に冗談はやめろよ。 とにかく今は皆を捜さなきゃいけない。 一番に車を後にしたエルを特に―」 詩音は痛みに顔をしかめながら尋ねる。 「他の皆は大丈夫かしら? カンナと遼河は早々と姿を消したみたいだけど。 良いわよね。 死神は肝心な時に姿をくらませられて。 ・・・生身の人間は辛いわ」 柏木はポケットを何やらごそごそあさり始める。 そして和紙のような紙を出し、詩音に言う。 「こんな時に使えるかは疑問だが、今はこいつにかけるしかないか」 柏木が紙にフッと息を吹きかけると、 紙は巨大な龍に変化した。 龍のたてがみと髭は風もないのに炎のように舞い、 青いうろこはきらきらと輝く。 柏木は詩音を龍の背に乗せると、 自らも龍の背にまたがる。 柏木は龍に足をかける時、痛さで「ウッ」と唸った。 その時、一瞬だけ龍の姿が薄くなり、詩音は血相を変えて柏木を見た。 柏木は切れ長の眼を更に細め、ニッと笑う。 「大丈夫。 エルのいる所を見つけるまで気絶したりはしないから。 さあ、行こうか」 柏木が怪我していない方の足で地面を蹴ると、龍は空に舞い上がった。 龍はそのまますごいスピードで地面に並行した状態で飛ぶ。 道を歩く人もいたが、人々は龍に気づかず、ただの突風だと思い、そのまま通り過ぎていく。 この世に嵐が巻き起ころうとしていることを知ることもなく―
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