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香は戸惑っていた。
栗色の髪に丸っこい目。
こんな子、本当に見覚えがない。
でもいつも遊んでいたはずなのに・・・
自分の記憶なのに、エルに良い様にされているのが腹立たしい。
それにしても本当にこの人は―
さっきから何も言わなかったクリスティーネが呟く。
「・・・この子って、秀平君に似てない?」
香がそう言われて、子どもをじっと見ると、
確かに今の秀平の面影がある気がする。
香は青ざめ、震えだす。
「じゃ、じゃあ、エルは秀平・・・」
「そう決めつけるのは早いわ。
エルは貴女の記憶を操作したのよ。
この子だって、偽者(フェイク)の可能性が高いわ。
もう少し術を続けて名前を・・・
あっ!!!!!」
術をかけようとしたクリスティーネが何かに弾かれたように、
右の手首を押さえ、痛みをこらえる。
香がクリスティーネに駆け寄ると、クリスティーネは油汗を流しながらフッと笑う。
「名前を調べるのは一筋縄ではいかないようね。
でもせめてこの子の行き先くらいは・・・」
クリスティーネは固まり、目を見開く。
香はクリスティーネの変化に気づき、
「えっ?」と言って振り向く。
そこにいたのは―
血まみれの制服に身を包み、邪悪な笑みを浮かべる秀平だった。
香は震えながらもクリスティーネの前に立ちはだかる。
クリスティーネは香の袖を掴み、必死で香を止めようとする。
「止めなさい!!!
今の秀平は貴女の知っている秀平じゃない!!
今の彼は―」
秀平はクリスティーネの言葉を遮り、大きな声で高笑いする。
「俺は何もしねえよ!!
クリスティーネ、そんなに香が大事なら、俺についてきな!!」
踵を返す秀平を見て、香はクリスティーネに小声で尋ねる。
「これって罠だよね?」
クリスティーネは香の手を握り、立ちあがる。
その表情は強く、一瞬だが、青い炎が揺らめいている様に見えた。
「罠でも良いわ。
そろそろ決着をつける時がきていたし。
行きましょう!」
クリスティーネは風を切って進む。
香は震えていたが、クリスティーネの手を握り返し、歩き始めた。
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