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血まみれの秀平は驚くほど速く歩いていく。 しかも一切足音を立てずに― 香は秀平の足があるかどうかを思わず確認した。 だが秀平の足は確かにあった。 先を行く秀平の腕を香は掴み、秀平に尋ねる。 「ねえ、あの車に乗ってた人達はどうなったの!? 瑠衣は!? カンナは!? 神父は!? 詩音は!? 柏木は!? ねえ、皆をどうしたの!?」 腕を揺する香の手を振り払い、 ニッと笑う。 「そんなに気になるかい?」 どす黒い笑みを浮かべる秀平に香はぞっとしながらも、 虚勢を張って言う。 「そんなの当たり前じゃない! 皆をどうしたの!?」 秀平は白い歯をぎらつかせ、 瞳には金色の光を宿らせ、 まるで笑いが止まらなくなったかのように、 クスクス笑いながら言う。 「瑠衣が死んだよ」 香は秀平の言葉を聞いた途端、 目の前が真っ暗になり、倒れそうになった。 そんな香をクリスティーネが支える。 クリスティーネは香が小刻みに震えているのを感じ、 唇をぎゅっと噛みしめる。 「着いたよ」 秀平の声で二人が前を見ると、 灰色の塔が建っていた。 塔の上には数多の烏が止まり、 塔の窓ガラスは全て割れ、 正面の硝子扉も壊れて半開きになっていた。 硝子扉の向こうには担架や点滴用チューブが見える。 「・・・もしかしてここ廃病院?」 香が怯えて立ち止まっていると、 秀平は躊躇なく壊れた扉から入り、手招きする。 クリスティーネは香を気遣い、手を繋いで歩く。 二人が扉の硝子を避けながら入ると、 後ろでガシャーンという音がした。 すると床に黒こげになった長髪の生首が目を見開いた状態で転がっている。 香が二、三歩後ずさりすると、 突然生首の顎が外れ、 舌と歯が剥き出しになったまま、 けたたましい笑い声を上げる。 「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」 「キャーッッッッッッ!!!!!!」 錯乱した香はクリスティーネの手を振り払い、 物凄い勢いで走りだした。
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