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なんともダルそうな表情で黙々と荷物を運び、生活する分に不可欠な部分から整理していく。寝るためのベッドや、台所などなど。
春とはいえ、身体を動かし続けているため額には汗が浮かび顔にも多少の疲労の色が見て取れる。
そしてそれは整理も終盤に差し掛かり、洗面所へと足を運んたときのことだった。
「今日のところはこれでおしまいって…え?」
最後に風呂場にシャンプーなどを置こうと向かっていた足を思わず止めた。いや、止めざるを得なかったのだ。椿の視線はとある一点を見つめたまま動かない。
その見つめている物体、それは鏡であった。だがしかし、自分に見とれているというわけではない。
そこにあるはずのものがなかったのだ。必ずなければならない“自分の姿”が。
鏡は映すことを拒むかのように、椿の姿だけをそこには映さなかった。何の特徴もない白い壁や、天井の電気など、椿の姿以外はしっかりと映し出されている。
姿が映っていれば、きっと椿の滑稽な顔が浮き出ていたであろう。椿は口を間抜けに開いたまま動かない。
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