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言うなれば水に手を突っ込んだかのような微かな感触。
その予想外の不気味な触感に思わず手を引っ込めた。
反射により引っ込抜かれた手は何の抵抗もなく、すっぽりと抜けた。
「なん…なんだ?」
驚きつつも鏡を見つめるが相も変わらず自分の姿は映っていない。今までこんなことはなかった。この町に引っ越してきて何か異変が起きたのだろうか、それともこの鏡がおかしいのだろうか、この部屋は霊が住み着いているのか─自分を映さない鏡を見つめながらも思考世界へと入り込む。
恐怖心はありながらも椿は意外に冷静であった。普通であれば、恐怖心に支配されすぐに思考世界へ入り込むことはしないであろう。
「…まあ、いいか。何かあったらそんとき考えよ」
自分に言い聞かせるかのように声を出した。不安を取り除くために言葉に出したのだろう。
何かあったらでは遅い、いや、もうすでに不思議なことが起こっていると思うのだが、椿はどこか抜けているようだ。
いや、現実逃避をしたいだけなのかもしれない。
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