君が好きだよ!

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 支流沿いに群生する庭石菖が、精一杯に小さな葉陰を拡げている。控え目にそよぐ風は澄んだ川の流れに乗って、時折現れる橋脚に、触れては気ままに離散する。明け方に降った雨が花粉の舞う空を洗い流してくれたおかげで、太陽まで遮るものは何もない。交通量の少なくなった旧国道を、久しぶりの散歩に出た園児たちが賑やかに横切って行く。  旧国道に遠慮がちに佇む喫茶店は、ビルに挟まれて窮屈そうにしながらも、しっかりと地元に根差している落ち着いた店だった。明るく清潔な店内には微かにビートルズが流れ、コーヒーの香りが染み付くカウンターの脇で、手入れされたハンドルタイプのエスプレッソマシンが、手挽きミルとならんでゆったりと待機している。  奥の席に休憩中のサラリーマン。カウンターには散歩途中に立ち寄った男性が1人いて、入口近くの席では着慣れないスーツに身を包んだ女の子が二人、ティーサーバーとブレンドコーヒーを前に卒業旅行の相談をしていた。
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