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長めの髪の毛をカチューシャで乱暴にまとめた細面の女の子は、名前を絵里という。
「そのツアー、確かに安いけど、そんなに早く成田までいけるかなぁ。ここの駅から出てる直行バスだって一番早くて七時発だし。始発電車の乗り継ぎで間に合わないと結局前泊する事になって高くつくんじゃない?ちょっと調べてみるか」
向かいに座る女の子は、絵里が自分に話しかけているのか、それとも独り言を言っているだけなのか判断できないまま、仕方なく旅行ガイドに視線を戻した。
キレイな耳を柔らかく隠す栗色の髪は、就職活動のスーツには若干違和感があるものの、オレンジや黄色といった明るめの服であれば、そのふっくらした頬と表情豊かな瞳とあいまって、ひと時視線を集めるくらいの魅力を持っていた。華奢なあごを人差し指で支えながら、ガイドブックの隅々を睨む。
右手で手早くスマートフォンをいじっていた絵里は、力を抜いて呟くように言った。
「あ~、やっぱり駄目だ。どうやってもたどり着けないよ。高いけどもっと良い時間のか、それともコースを考え直した方がいいかも。でも一生に一度だし折角ヨーロッパに行くんだから行きたいところは周っておきたいよねぇ」
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