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書斎は静まり返っていた。サーバインは、デスクに両肘を突き、両手を合わせたまま沈黙を続ける父親が口を開くのを待っていた。茶髪のブリーチで甘いマスクをしてスーツをまとうサーバインは、まだ三十を超えていなかった。幼いころからずっと父親から冷徹な経営戦略、帝王学、経済学、社法、それ等を叩き込まれてきた。
黙したまま冷やかな目でサーバインを見やる、白髪が混じった茶髪のオールバックをした、何処か輪郭がカマキリに似た初老の男、それがウェンディの経済中枢を担う、企業テンペストの社長であるアーロン・グレイシーという男だった。
テンペストはあらゆる兵器を軍や紛争地帯等に提供する、いわゆる死の商売を行っている。元々このテンペストはアーロンの祖父が立ち上げた会社だ、その祖父も冷酷な経済哲学を持ち合わせていた筋金入りの商人であった。
アーロンはその会社を継ぎ、それをウェンディに欠かせぬくらい収益を呼ぶまでに発展させた。
ウェンディはオシャンに属する街である、彼の祖父は自国の軍や警邏隊を対象にビジネスを繰り広げていた、紛争地帯に積極的に売りつけるようになったのはアーロンが始めたことだった。
その手腕には誰もが舌を巻いた。また商売の性質上、危険が付きまとうが、裏社会に太いパイプを持つことで保身を図っている。
表にも裏にも強い影響力を持つアーロンを、ウェンディの影の支配者と呼ぶ者もいる。事実として彼はその権力をためらわず行使してきた、この街には面と向かって逆らえる人間はいない、それを疑わないのであろう。
サーバインはアーロンの一粒種だ。サーバインが立っているのはアーロンが所持する屋敷の書斎であった。
部屋にはアーロンとサーバインの他にもう一人の人物がいた。サーバインは共にアーロンと顔を合わせるのは止めたのだが、その人物は反対を押し切って、この場の椅子に腰をかけている。
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