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Side Chika: <・・・おはようございます、ジェーン。> 眉間にうっすらしわを寄せながらPCに何かを打ち込んでいた レセプショニストのジェーンが顔をあげておはよう、千華!と微笑み返してきた。 これが今、唯一私が自信を持って言える英語だった。 英語をマスターするために、ニュージーランドの地に来て5ヶ月。 5ヶ月もたったのに、私の英語力は何一つ変わっていなかった。 ――― やっぱり、言語ってセンスだよね。 どんなにがんばったって、感覚で覚えられる人と、 苦しみながら覚える人じゃあ覚えられる速度って違うよね。 そんなことを考えながら階段を上っていると、後ろのほうから ”バンッ”っとドアが開く音と共に、 青いラグビーバッグを斜めがけした男が飛び込んできた。 ・・・・・・何もみなかったことにしよう。 うん、そうだ、そうだ。何もみていない。 重い足を引きずり上げるようにゆっくりと動かしその場から遠ざかろうとしたが、 そんな私の足取りを馬鹿にしたような軽快な足音が後ろから聞こえてきた。 「よっ!千華」 190cm近くもある身長が突然目の前に現れ、階段を照らす蛍光灯をさえぎった。 梅宮 慎。 私より4歳年下だったが、誰一人そんなことを気にすることもなく、 気にしているのは私だけのようだった。 こんなヤツと同じクラスということが、異国に来て2番目のショックだった。 その英語学校のクラス別テストの結果で、一番下のクラスになったショックに 打ちひしがれていた矢先のことだ。 初めての自己紹介の時、ヤツの名前を聞いてびっくりした先生が、 シーンと呼ぶことをみんなに提案してきた。 英語で”罪”という意味があるsinという響きは、 敬虔なクリスチャンだったその先生にとって、 連呼するには重過ぎる言葉だったらしい。 先生はわかりやすいようにホワイトボードに”sin”と書いたり、 十字架を描いたりしながら丁寧に身振り手振りで説明していたが、 ヤツはその意味すらわかっていないようで、ただひたすら サンキュー、サンキューと連発していた。
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