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『レイくんの手作りは今日はないのぉ~?』  ダラダラと語尾を延ばす喋り方に少々苛立ちながらレイは言う。 『狂歌(キョウカ)さん無理言わないでよ。昨日出かけて俺疲れてるんだって…』  営業用に幾らか笑みを作り、常連客の狂歌の相手をする。狂歌はこの店の一番最初の客だった。  レイの両親は、レイが高校生の時に死んだ。交通事故で、それは本当にあっけなく。暫く生活して行くだけの保険金と喫茶店があった為に、高校を辞め、調理学校に不真面目に通い最近やっと免許を取った。  しかし店を開き自分で運営するには他にも必要な物が有りすぎる。  幸いしたのは建物の一階の奥と二階部分を自宅として購入していた為に、『バレなきゃいい』の精神で中途半端な営業を続けていた。  しかしながら口コミで噂が広がっていき、何時の間にかレイやミツと同類の人種が其処に入り浸るようになった。ロリータ、ゴシック、パンク…その客人達への共通ルールは唯一つ、この店を公にしないこと。  それは法に触れるから、というよりも自分達の居場所を守ろうとして従順に約束を守っているように見えた。
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