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『なんで、こんなに遅れたの?』
少々ふてくされた様子で、唇をとがらせながらレイを見上げる。
『なんでって…煙草買いに?』
飄々と笑み一つ浮かべずにレイはくわえたアークロイヤルに火を灯す。吐き出す紫煙が花弁の様に散り、辺りに濃密なバニラの香りを振り撒かれる。
『……甘っ』
『自分で吸っといて?』
アークロイヤルは吸い口は爽やかな柑橘のような味がするが、立ち上る煙は異様な程に甘い。
ミツはその香りが好きだ。甘く鼻を擽られる感覚はスイーツを差し出されたようにさえ感じられる。
『で…今日はどこに連れていってくれるの?』
ミツが口を開く。進行方向は慣れた道では無く、段々と人が少なくなる細い上り坂に成っていた。
黙々と歩き煙草だけをたまに吹かす相手にはやはり、ふくれっ面をするのが限界で。
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