レキとシンラ

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季節は春、四月下旬に入った頃。桜の花びらはヒラヒラと舞い、すでに緑が色濃くなりつつある。よく晴れた空の下、城下町は賑わいをみせていた。 町から少し外れた砂利道を一人、男がとぼとぼと歩いていた。近くにある赤く塗られた橋を渡りきり、竹林を抜けてきた男の背は丸くなっており、気分が暗い様子が窺える。 男は一つため息を吐いて自分の来た道を振り返った。誰かがいるわけでもないのに、その視線は何かを探すように左右に振られ、そしてまた前を向く。 「いるわけない…か。」 ぼそりと呟くと、男はまた歩みを進めた。 二十分ほど歩くと、茶屋などの店が点々とある通りに入った。さらに進むと町人が自分の商品を売りさばこうと声を張り上げ、活気に溢れている場所にたどり着く。 「…そろそろ腹ごしらえでもするか。」 鳴り始めた腹の虫を抑えながら、男はいい店はないかとキョロキョロ辺りを見回した。すると…。
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