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「高太にぃ!これ聖兄ちゃんにもらった!」 広君が水鉄砲をふりあげて叫んだ。 「藤巻またくれたんだ。たくさんたまったね」 「うん」 広君は大きくうなずく。 高太さんは広君の病室から出ていった。 「高太さんて、ずっと広君の担当の医師(せんせい)だった?」 「うん!でもちょっとお休みしてた」 「そう…」 「優希姉ちゃん、これ読んで!」 「うん」 私はそっと絵本を開いた。                     「はい、オレンジジュース」 聖ちゃんが缶をさしだして言った。 「ありがとう」 うけとって私は聖ちゃんの手をみた。 「寒くない?」 私の隣に腰をおろしてせいちゃんが聞いた。 「大丈夫」 12月の屋上は人を拒んでいる気がする。 「聖ちゃんは、高太はずっと先をみてるって言ったよね」 聖ちゃんが顔をあげた。 「ずっと先になにがあるんだろう」 「高太がみているものはひとつだよ」 私は聖ちゃんをみた。 聖ちゃんはなんだか淋しそうにポケットに手をいれた。 私のベッドの上にはクマのぬいぐるみがひとつおいてある。けっこう前に聖ちゃんがくれた。 「優ちゃん、おやすみ」 「おやすみ」 聖ちゃんはそっと笑った。 そして私に背中を向けて病室から出ていこうとした。優しい背中だと思う。
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