拾壱

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そして広間の前に着き、少しだけ襖を開けて中を覗く。 そこにはやはり山南が立っていた。 手には何かを持っている。 『何してるんだろ?』 千鶴は不思議に思いながらも、息を殺して中を見る。 しかし 「まさか君に見付かるとは」 山南がこちらへ振り向いた。 「!!」 「そこにいるのは分かっていますよ。雪村君」 もはや隠れようとも無駄だと分かった千鶴は、襖を開けて中へ入った。 「こんばんは、雪村君」 「山南さん……」 今の山南は、怪我をする前とおなじような優しい笑みを浮かべている。 それは嬉しくもあるが、逆に少し不気味だ。 「どうしたんですか?こんな時間に」 「それは君もでしょう」 「私は、山南さんがここへ向かっているのが見えて……」 たどたどしく返事をする千鶴を山南は、変わらない笑みで見ている。 そして、再び千鶴に背を向けて広間を見渡す。 「ここで、近藤さんと土方君と三人でよく話し合いをしたものです」 「?」 ふいに懐かしむような声で山南は語り始めた。 「新選組という名前を会津藩から頂く前から……ずっと……私はあの二人と一緒に、新選組の事について話してきました」 「……」 「けれど、今の私は……刀も振るえない。知識さえも伊藤さんに劣る……」 山南の声が震える。 「ここに"今の"私の場所はもはや……無い」
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