拾壱

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「……」 千鶴を布団に寝かせ、桜は俯きながらその横に座っていた。 「とりあえず、千鶴は気を失っただけみたいだな」 「うん……」 暗い声の桜の返事に、平助は困った顔をして横に座った。 「そんなに落ち込むなよ」 しかし桜は思い詰めた顔だ。 「……千鶴が出ていった時に私が気付いていたら、千鶴はこんな事に巻き込まれなかった」 「そんなの、仕方ねぇだろ?」 「私が……気を抜いていたから……。山南さんの様子がおかしいって気付いていたのに」 「それはお前だけじゃない!皆だって、山南さんの様子がおかしい事には気付いていた!」 「……」 なおも桜は俯いたままだ。 「誰も、まさか山南さんが若変水を飲むなんて考えられなかったさ……」 「……山南さん……大丈夫かな?」 まだ暗い声だったが、桜は返事をした。 「分からねぇ。さっきは元の姿に戻ってたけどさ」 「平助……。山南さんが死んだら、どうしよう……」 ぎゅっと手を握りしめる。 「何バカな事言ってんだよ!」 「だって……」 ―若変水を飲んで生き延びた人は今までいない。 「ッ!大丈夫だって!」 俯く桜の顔を上げさせる。 「何す―」 「信じろ。あの人があんな薬に負ける訳がねぇ!」 「平助……」 平助の強い瞳が桜を見る。 その瞳を見て、桜の心は落ち着きを取り戻していく。 「……ごめんね。うん、ありがと……」 柔らかくなった桜の声を聞いて平助の表情も柔らかくなる。 そのまま二人は長い長い夜が明けるのを待ち続けた。 山南の無事を祈りながら……
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