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それからしばらく時間が経って、時計の針は午後11時を差していた。いくら家が隣だとはいえ、あまり遅くなりすぎると莉乃の両親が心配するだろうと考えた僕は、キリのいいところでお開きにすることにした。
「ごちそうさま。ありがとね、莉乃」
「お礼なんていいって。わたしの気持ちだからさ。それに……」
玄関まで送っていくと、莉乃は純粋な朗笑を浮かべた。
「明日からは教室まで一緒に行けるんだし、大翔といる時間も増えるんだから、そのお祝いってことで!」
「莉乃……」
いい幼馴染を持ったなあとつくづく思う。やっぱり父さんの意向に従って正解だった。
でもいくら何でも転校のことをこんな急に言わなくてもいいと思うけどね、父さん。
「明日の朝も来るよ。ご飯、何がいい?」
「あ、作ってもらいたいのは山々だけど……明日からは朝ご飯は大丈夫だよ」
「え、どうして?」
「僕もいい加減、自立しなきゃいけないからさ。莉乃に作ってもらってるままじゃ、ひとり暮らしの意味がないと思うし」
「そっか」
莉乃は笑みを崩さず、しかし少しばかり肩を落とした。自分で言うのも恥ずかしいけど、僕じゃなければ今の莉乃の変化に気付けていなかったと思う。そのくらい、微妙なものだった。
「じゃ、また明日ね。おばさんによろしく」
「うんっ、おやすみ!」
手を振りながら歩き出す幼馴染を見つめながら、僕の顔も自然と綻んでいた。
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