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ここを開ければ、あなたは待っていてくれる。
《愛し子よ》
静寂。
朝廷には僕が出す以外の音は響かない。
「太子、おはようございます。」
もちろん、襖を開ける音や膝をついたときに擦れる畳の音、衣擦れの音まで、全ては僕が出す生活の響き。
「今日は何します?遊びます?」
横たわる太子は衣服を纏っていない。白い肌が薄暗い部屋の中でぼんやりと浮かび上がっている。
寝息をたてている太子にゆっくりと跨がる。
「……太子。」
徐々に、だんだんと、手に力を加える。拳をつくり、目の前にかざしてみた。
「僕は、この手で」
あなたを狙うモノ全てを排除しました。
額に接吻をおとす。
胸板に頬を押し当ててみた。
「もう、安心して過ごせますよ。」
僕と一緒に。
そう呟くのと同時に太子の右腕が持ち上がった。
そのまま背中に添えられる。
「起きてたんですか。」
返事は無い。
無表情で僕を見つめるだけだ。その深い闇をたたえた瞳は、僕さえも映らないほど濁っている。
顔を見ずとも、いつものことだ。分かりきっている。
「太子、太子…」
口先だけで呟いてみる。
歌を 紡ぐように。
私の脳裏に浮かぶのは、いつもいつもいつも妹子の笑顔。
四つ葉のクローバーを差し出す恥じらうような微笑み。私を見つめる、狂愛に歪む瞳。
あぁ、私の可愛い可愛い妹子。
こんな に も私を愛 して
私は唇をゆっくりと狂喜に歪めた。
(愛し君よ、いつまでも、この胸に───…)
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