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目の前の死んだ魚のように濁った瞳を見る限り、この男は微塵も驚いてないようだ。
土方は左手に滴り落ちる甘い液を気にすることなく、頭の隅でそう考えていた。
夏。
梅雨も過ぎ、うだるような暑さが体を刺すとある日。
土方は制服の上着を肩にかけ汗を拭きながら『万事屋銀ちゃん』へと向かっていた。
「ちっ…」
無意識に舌打ちをする。
不意に近藤との会話が思い返される。
『わりぃトシ!このアイスの詰め合わせ、万事屋に持ってってくれないか?』
『は?何でだよ。』
『いやぁ…実は昨日街中でばったり会ってな。ほんの些細な事がきっかけで賭け事をして、負けたほうが何かを相手に奢るってのをやったんだよ。』
『負けたのか?』
『はは、まぁそういうことだ。』
『だせぇ…』
『で、でもあの賭け事はずりぃよ!お妙さんに向かって俺を指し示して「これはゴリラですか?」って聞いて「はい」って言うか言わないかとかさぁ!』
『結果明白じゃねぇか!』
『「言わない」の方にかけたのによぉ!』
『鏡見ろ自分を見ろ過去の話を読み返してみろ!!』
『万事屋の奴、バナナ持たせたんだぜ?俺に!人間誰でもバナナ持たせりゃゴリラに見えるもんだろ!?』
『あんたほど似合う奴はそうそういねぇよ!』
《これはゴリラですか?》
《まごうことなきゴリラ・ゴリラ・ゴリラです》
『ほら見ろ!』
『まぁそういうわけだからさ、頼むよ!俺今からとっつぁんとこ行かなきゃなんねぇんだ…』
あとで限定のマヨネーズ買ってきてやるから!
そう言って袋を渡して去っていくゴリ…近ゴリラを見送ることしかできなかったのだ。
(別にマヨネーズに釣られたわけじゃねえかんな、ぜってぇ…)
そう脳内で繰り返しながら土方は万事屋銀ちゃんの前で立ち止まるのであった。
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