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「8月になるんか…早いのぉ…」
手を後ろで組み、枕を作って寝転ぶ男がぽそりと呟いた。
扇風機の風が髪を撫でたかと思うと、すぐに風が止まる。
男はゆっくりと瞼を開けた。
隠れていたのは、深い藍色の瞳。その瞳をくるりと扇風機に向ける。
映ったのは、首を振る大きな目玉。
「誰や首振りにしたんは!」
勢い良く上を叩くと、ガタンッと音を立てながら停止する。
常に自分に吹きつけられることに満足したのか、男は再び寝そべった。
「広島さん、スイカいります?」
すすすと近づいてきたのは、夏の暑い日にも関わらずピッチリとしたスーツ姿の男、東京。
閉じかけていた目を開けて、体を起こした男…広島は「ありがとー」とスイカを手にした。
滅多に会わない2人だが、夏になると広島がよく東京に会いにくるのだ。
広島は東京だけでなく、長崎や沖縄にまで行っているらしい。
この時期になると各都道府県の動きが活発になる。それはある日に向けての準備をしているからだろう。
「いやぁ、毎年毎年ありがとうございます。」
「気にしんさんな、もう慣れとるし。」
微笑む広島はスイカの皮を皿に置いた。
「…今年で何回目かいのぉ?」
「……。」
「数えとう無いけぇ数えんのんじゃけどね。」
斜め下に目をやる。ため息をつきながら続けた。
「数えるたんびに、離れていってしまいそうになる。」
「…若者、ですか?」
ほうよ、と広島は大きく頷いた。
「今じゃあ歌も知らんのもおるんよ。」
「歌?」
東京が小首を傾げると、広島は微笑みながら歌い始めた───…
To be Continue…
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