氷の街

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 少女は長く艶やかな銀髪を靡かせ、忌まわしき祭壇へと向かっていた。  その祭壇で行われる儀式は、彼女の魂を神に仕える為だけのものとして作り変えるだろう。そうして彼女の母も祖母も、そしてそれ以前の祖先達もガラントの神に仕える、血に塗れた巫女となったのだ。  少女は純白の巫女服に包んだ華奢な身体が震えるのを抑えようと、自身の細い腕を掴む。礼拝堂の大きな扉の前で、少女は止まった。 「……大丈夫。 私は逃げられる…… いえ、必ず逃げ延びてみせるわ」  その為に完全に自我を保ったままに神器を手にする事が出来る、神との契約たる儀式を初めて執り行う、16回目の誕生日を待っていたのだから。 「お姉様のためにも……」  少女はそう呟くと、意を決した様に扉に手をかける。僅かに震えながらも、その蒼い瞳には決意の光が宿っていた── ***  今より3年前、少女が13歳の時に、それは起こった。  その日、朝からガラント族の街は10年に1度と言える程のブリザードに見舞われていた。街は元々孤立しており、大陸の北端部分に位置している。当然街に訪れる者は殆ど居らず、また、歓迎もされなかった。  ガラント族の人々は街の中心にある巨大な石造りの建物に集い、神に祈りを捧げていた。それは街唯一の教会なのだがむしろ頑強な城と言えるものであり、実際街を治める家系の者が住んでいる。  少女──ノエル=アルマスは、その長女であった。ガラントを治めるシャーマンの家系、アルマス家の叔父、母、そして1人の兄の元に暮らしている。
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