氷の街

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 ノエルは二階の吹き抜けから1階の大きな礼拝堂を見ていた。1階は礼拝堂、2階と3階は居住区となっており、2階まで続く吹き抜けからは1階の礼拝堂を見渡す事が出来る。礼拝堂には人がひしめいていたが、2階と礼拝堂にある二階へ上がる2つの階段にはノエルら2人を除いては誰も居なかった。  本来なら西日が差し込む頃だが、礼拝堂に日が差し込まないばかりか既に暗くなっている。 「今日は人がたくさんいますね、お姉さま。 みんなお祈りにきてくれたのかしら」  青いワンピース姿のノエルは、隣に佇む女の方に振り向いた。女は黒い短髪に茶色い瞳、黒い厚手のハイネックにすらっとした紺のズボンといった出で立ちだ。しなやかな、猫の様な雰囲気を醸し出している。 「すごい嵐だし、そうだと思うよ。 ……僕もお祈りしてこようかな」  そう言った彼女の瞳が一瞬、憂いに陰った。ノエルは彼女のその様子には気づかなかったが、突然女の右手の袖を両手で掴む。 「行かないで。 そばにいて……」 「はいはい、行かないよ」  女は苦笑しながら、ノエルの頭を撫でた。ノエルの叔父も母も、そして兄も彼女を構う事があまりなかった。偶然ノエルと出会ったこの女は最初こそただの不思議な来客だったのだが──いつ頃からか、本当の姉の様になっていった。 「いつだったっけ、僕達が会ったの」  ノエルの頭を撫でながら礼拝堂を覗く。人々が懸命に祈りを捧げていた。恐らく、このままでは届かないであろう祈りを。 「私が9歳だったから……4年前?」  ノエルは上を向く。女は、ノエルよりも頭1つ程大きかった。 「てことはちょうど僕が今の君と同じ13の時か。 最初は本当に怖がってたよね。 君はまさに籠の鳥だったし……差詰め、僕は忍び込んだ猫って感じかな」  女はへらへらと笑いながら言う。貧しい生まれの彼女はちょうどその頃片親を無くし、路頭に迷っていた。そして4年前の雪の降るある日、女は『救い』を乞おうと教会を登ったのだ。本来立ち入り禁止の2階に登った女は、そこで秘匿された少女──ノエルと出会った。
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