氷の街

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 振り下ろされた神の剣は神の杯を2つに打ち砕き、更に祭壇を両断した。どこからともなく地響きの様な叫びが響き渡り、大地が揺れる。 「なんて事を……っ! 何をしたか分かっているのか!」  叔父が膝を付きながら叫ぶが、ノエルの耳には届かない。  神の手足として造られた三神器が、人に奪われ、人に破壊された。その神の怒りは、神の一部たる剣を持つノエルの怒りと同調した。神との繋がりはあれど、その剣は最早ノエルの力となっていた。  ノエルは湧き上がる怒りを抑えようともせず、その感情のまま剣を振り上げた。 「皆、等しく消えてしまえ!」  奇しくも、一部ではあるが神との同化を果たしたノエルは、その怒号と共に部屋にある全てを凍らせた── ***  ノエルはただ黙って森を歩いていた。氷漬けになったガラントの街を背に向け、ひたすら南に。  あの部屋を凍らせた後、礼拝堂に居た人々は狂ったかのように慌てていた。人々は剣を持って現れたノエルに罵声を浴びせ、そして氷漬けにされた。街を抜けるまでにも何度も何度も人々に絡まれ、何十人もを葬った。  神の力の源である、信仰する民のを滅ぼす事で図らずもその力を貶めたのだ。神の力が弱まる事でノエルの剣の力も衰え、怒りが収まると共に剣はノエルの身体に吸収されるように消えていった。  我に返った彼女は呆然とした。怒りで朦朧とした意識の下で、数百もの人を屠っていたのだから。籠を壊し、元に戻る事も叶わなくなっていたのだから。  彼女は偶然にも籠の中の鳥と同じ名を持つ、生きる為に自らの父を殺した猫を思い浮かべて、ただ1人歩みを進める。 「どんなに汚れても、背負ってしまったからには生きるしかないのでしょう? ノエルお姉様……」  人として生きる為に街を葬った彼女は、1人の少女と出会う。その出会いは、また彼女を変えるのだが……それはまた別の話、別の時に。
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