3/11
前へ
/11ページ
次へ
「お帰りなさいっ!!お父様!!」 「美玲!!また一段ときれいになって」 強面で有名な、清宮誠一郎の目尻がだらしなくたれさがる。 「ふふふ。ありがとう、お父様。お父様がエステティシャンを厳選してくださってるおかげですわ」 私には、高校生のころから専用のエステティシャンがいる。 週に4日、フェイスもボディもピカピカにしてもらう。おかげで、肩こりやむくみとは無縁だ。 私がエステティシャンを選ぶことはない。 常に父が決める。 「いーや、素材が良くなければエステも無駄なのだよ。おまえの美貌は、麗子ゆずりかな?」 誠一郎が麗子にウィンクをする。 リップサービスが自然にでるのも、ビジネス仕込みだろうか。 「そうね。ふふふ」 母親の麗子のきれいに塗られた唇が光る。 「さ、美玲も学校がありますから、早く朝食をいただきましょう。林シェフが腕をふるってくださいましたのよ」 清宮家の食事は全て3人のシェフがまかなう。 麗子がシェフを選ぶ。麗子は、清宮夫人でありながら、自分でレストラン経営も行っている。 麗子は経営者であり、シェフではない。 だから、美玲は麗子の手作り料理を食べたことがなくても、おかしいとも、悲しいとも思ったことはない。 久しぶりの親子三人の食事は楽しかった。 しかし、誠一郎は多忙で、午後にはまた海外へ行ってしまう。 麗子もまた、新しいレストランのオープンで、しばらく顔をあわせる時間がなさそうだ。 「では、行って参ります。お父様も、お母様も、お体に気をつけてお仕事がんばってくださいませ」 「ああ、美玲も清宮家の跡取り娘としてしっかり学ぶのだぞ」 「はい、お父様。では、行って参ります」 黒塗りのベンツに乗り込み、ニコニコと笑う誠一郎と麗子に手をふる。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加