きおくノート

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□■□■□■  入道雲がやって来た。灰色のお腹を引きずって空を飲み込んだ雲は、鹿沼の山を乗り越えて近くまで来ていた。  見上げるとポツポツと雫を地上に落ち始め、日光からやって来る風の臭いは土砂降りに変わると教えてくれていた。  私は校門を出るなり、その雲から逃げるようにコンビニまで走り始めた。  もわっとした空気が飛んで、制服のワイシャツがパタパタと鳴る。防衛用に改修された一直線の道は戦車が通れるようにと大きく幅が取られているけれど、実際戦車が通り始めたのは最近だけでそれまではずっと戦車よりも北風の方が使っている。  その横で隊を成した十数両の戦車がゆっくりと通過してゆく。沿岸部防衛用に配備される九〇戦車の一団。先生は教えてくれなかったが、みんなの見解だと、そろそろ日本も危なくなってきてると言うもっぱらの噂。  戦車は轟々とエンジンを吹かせながら、白い煙を吐き蒸し暑い風だけを残していった。  見上げると雲に追いつかれていた。  もう黒いお腹に取り込まれている。つかの間雨は土砂降りに変わった。  けれど、大量に降り注ぐ雨音がざらついた感触を消し去って、妙に心地良かった。  一番にたどり着いた私の少し後で、鶯色の濡れた髪から雨だか汗だか分からない雫を落とし、ハアハアと息を上げ想一は膝に手をつき笑って見せた。 「やっぱり和美ちゃんには敵わないな」 「シルバーがこれで28連勝か......」  そのすぐ後で長太郎が悔しそうに声を上げる。水気を飛ばすように縛っていた長髪を解き、曇った眼鏡を拭いた。  私達の夏は決まってこれで始まる。そして、みんなでアイスを食べながら何をするかを考えるのだ。    コンビニの中に入った所で、真帆と善司が縺れながら到着。今日は亜紀の奢りみたい。  真帆と私で先に勝利のアイスを選んでいると、真帆がコンビニの外に向け指をさす。 「不戦敗」
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