きおくノート

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 600円損した......  足下の夕焼けがチラついてる。水たまりに反射したオレンジ色の雲を踏みつぶし、私はアイスの棒を遠くへ投げた。  田んぼに走る一直線。そこから眺める景色は地球が丸いって事を教えてくれる。  遠くに去った雲間から戦闘機の引く雲が見えた。  一つ、二つ。  緩く弧を描きながら南に消えるのをみんなで眺めていた。  きっといつかは......  そんな事を考えていたんだと思う。  東都防衛学院、誰もが憧れる名門校。日本一の教育。最高の教材、教師。最新の施設設備。そして格安の教育費。  だけどそれは、将来の兵役が確定していると言う事。  みんながどんな理由でここに通っているかは知らない。なんだか聞いちゃいけない気がして、それをみんな分かってるみたいにその事を口にすることはなかった。  私は戦争に興味はないし、兵役を希望してる訳じゃない。私はただ、私自身を証明しなきゃいけないだけ。自分の力で......  でないと私の居場所はどこにもない、お父さんもお母さんも私を見てくれない。  全部、妹が持って行ってしまう......    だから私は優秀な学校で優秀な成績を納めて、お父さんとお母さんが私を見てくれるように頑張らなきゃいけないの。  ただ、それだけ......  それだけの理由。  だから正直、こんな冷戦早く終わればなって、思う。  想一や長太郎は違うのだろう、きっと違う事考えてる。目を見れば分かる。  きっと日本の為とか、世界の為とか考えてるんだと思う。だってあの飛行機雲をとても羨ましそうに見てるんだもの。    きっとそうだ。  でも現実はそう思い描いてる程、華やかでも美しくもない。そう思う。  私達がいつも使ってる小銃も、ナイフも、いつかは誰かに向けられる。  そして、それはとても簡単に、とても軽々しく、引き金を引いて誰かの人生を終わらせる。  あっけなくバンッって音だけを鳴らして、終わるんだろうな。  あんなに射撃訓練をやってるのに、私には想像出来ない。  きっとそれは、そんなに私が強くないから。日本とか誰かとかの為に生きてないからなんだと思う。    ふと、亜紀が目尻に指を持って行くのが見えた。  よく見ると、みんなの瞳が光って見える。ただ夕日の光りに反射しただけかもしれない。  でも......  誰も望んでなんかいないんだよね。
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