きおくノート

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 しばらく飛行機雲を眺め、次第に空に溶けてゆくのを見ていた。  何かを言い出さなきゃなんて思ってたけど、何も出てこなくて、放り投げたアイスの棒を開いたままの口が少し後悔していた。  真帆が俯き、夕日の映る水たまりを蹴飛ばした。 「きっと……」 「きっと......あれね! 想一は盗撮野郎でしょ!」  亜紀が真帆の言葉に被せながら、蹴飛ばした水たまりの上を飛び越えて振り向く。想一は一瞬驚いた顔をするも、ニヤニヤと笑みを浮かべて見せた。 「亜紀ちゃん分かってないな!」  亜紀より前に出ると、想一は自分の鞄から先程買ったカメラを取り出す。 「これはミッションなんだよ」  そう言ってファインダーの接眼部を指さした。 「盗撮のどこがミッションなのよ」  ため息混じりの亜紀とは裏腹に、長太郎は怒り格闘のポーズ。 「まさかグリーン! お前.....オルグの手先、カメラオルグなのか!」 「戦隊バカ」  真帆がクスッと笑い出す。 「長太郎君、僕をガオグリーンって言いたいのかい? だけどね、長太郎君。ガオレンジャーにグリーンいないでしょ。そんなんじゃないんだよ、僕はねI.M.Fの職員なのさ、ちょいと指令を受けてね。教え子を助けに行かなきゃいけないんだよ」  鎖骨の辺りに手を持ってくると覆面を剥がすような仕草を自慢げに披露する想一。 「何それ、イーサン・ハント気取り? 似合わない」  亜紀が眼鏡を掛け直し頬を緩めた。 「なんにしてもだけどね、和美のはけっこうあるわよ」  腕組みをし胸を強調する亜紀、それを見た真帆が私を見て自分の胸に手を当てる。 「何、そんなに気に病む事はないさピンク、俺達は俄然まだ成長期! これからいくらでもビッグになれる!」  つむじを曲げた真帆の手が長太郎の手に抗うも、圧倒的な長太郎の力に真帆の髪はクシャクシャになった。  それを見てみんなが「長太郎のセクハラ」と笑う。もちろん、私も笑った。  そんなたわいもない出来事を、今日もこの「きろくノート」に書き込むのだ。  何が出来た、どんな成績を納めたとかそう言う事じゃなく、これはそんな毎日を、日常を、記録しておく為の......  ただの記録ノート
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