第一宵 空谷の跫音

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臨終への感情は当然変わらない。憎い。 しかし罪を償うために毎日献身的に通うその姿は、心の底からの謝意を示している。今考えてみるとそうとも取れる。 最初に来た時はどれだけ取り乱した事か。人殺しだとか、出てけだとかの罵倒のオンパレードで看護師さんに傷口が開くと押さえ付けられたくらいだ。 それが今や和らぎ、感謝を感じかけている。 「……波川君。明日の事なのですが……」 「明日?」 「はい。明日の何時頃に退院するんですか?」 身支度をする臨終は少し躊躇いながら尋ねた。 言葉に詰まる。一体何故尋ねてくる?俺達の関係はここを俺が出て終わるというのに。 「……何で?」 「い、いえ……整理を手伝ってお荷物を波川君の自宅まで運ぶ手伝いをしようかと思って……ダメですか?」 家まで来るつもりなのか?そう考えて和らいでいた気持ちが消えた。刺された痛みを思い出す。 しかし臨終の懸命の奉仕に心が揺らいでいるのは確かだ。 いくら罪滅ぼしのために俺を世話しても意味ない。最初にそう宣言していたくせに、俺は何故か臨終を受け入れつつあった。 「……退院の時間はーー」 「ーー波川」 決定的な、臨終を受け入れる決定的な言葉を吐きかけた俺は、最近聞き慣れてきた女性の声で顔を上げた。 扉の方には砂原尾先輩がいた。
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