ホワイトノート

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 私と彼は同じ学校に通っている。 『ワイシャツ着れる?』 『大丈夫』   『……ネクタイの結び方は?』  『わかる……わからない』 『……』 『わかんないから、結んで?』  仕方ないなあ、とネクタイを結んであげたら彼は嬉しそうに笑う。  こんなとき、記憶がないなんて嘘なんじゃないかなとかたまに期待しちゃうけど、 『おばさん、行ってきます』 『いつもありがとうね、行ってらっしゃい』 『……行ってきます』 『はい、行ってらっしゃい』 毎朝見せる彼の母親に見せる他人行儀さに、それは否定される。  そんな彼の態度にめげず笑顔で彼を見送るおばさんや、影で支えているおじさんは強い。    彼の為に二人で病院や資料館を巡っていることを――彼は知らない。
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