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『ただいま』
『お邪魔します』
彼の家の鍵を、私があける。
家の中には誰もいなくて、私は暗かったリビングの電気をつける。
『俺の親たちは?』
『二人とも共働きだから』
『他に兄弟は?』
『いないよ、一人っ子』
ソファーに腰を下ろした彼を横目に、私はテーブルの上にあるメモ書きを手に取る。
『なんか、俺よりも俺のことを知ってるんだよな』
『嫌?』
『嫌じゃないけど、』
『けど?』
『お前がいなくなったら、俺は俺のことを知らないままなんかなって思った』
実は一日に一度、彼は今言ったことと同じことを私に言う。
だから、私も毎日同じように返す。
『私がいなくなるなんてことありえないから大丈夫』
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