第1章 銀色の侵略者

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 彼女がそこまで言うと俺の視界から今まであったアパートの部屋が消えた。彼女と最初に遭遇した時に見た、あの赤い光に包まれている。麻耶も同じようだった。キャッと声を上げて俺の腕にしがみついている。  いつのまにかラミエルは俺達の頭上に腹ばいの格好で宙に浮かんでいて、「では行きます」と言った。  次の瞬間、ほんとうに瞬きする間もない一瞬の間に、俺達は空の上に移動していた。ラミエルにうながされて足元を見ると、大都会東京の夜景が真下に、そう自分達の足元の真下に、ミニチュアの様に見えている。  よく大都市の夜景を指して「宝石箱をひっくり返したような」という表現を聞くが、その時俺はそれがあながち陳腐な言い草ではないな、と思った。色とりどりの点が無数に地面に散らばり、ところどころに光の川の様に見えているのは首都高速だろうか。  麻耶のやつもさすがに感心したらしく、しきりに、あれは池袋サンシャイン、あれは東京タワー、あっ、あれは新宿副都心ね……とキャーキャー言っていた。  それから俺達が乗っている球体は徐々に高度を落とし、俺のアパートに向けて降りていった。途中で東京タワーの後継者である東京スカイツリーが見えてきた。まだ半分ちょっとが出来上がったところだが、それでももう東京タワーの高さを追い越しているそうだ。  そして俺も麻耶もその一部始終を見た。やがて俺達は俺のアパートのドアの前に降り立ち、そこで赤い球体は消えた。  ラミエルが背後から麻耶の肩をポンと叩きながら恐る恐るという口調で尋ねる。 「あ、あのう……これで信じてもらえるでしょうか?」
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